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LIFE IS PICNIC

- SHORT STORY #003 -

A DAY IN THE LIFE OF TOKYO 01

​ONE MORNING IN SUMMER

​- SHORT STORIES -

夏の午前中の物語

​ある夏の朝、目が覚めて、一日がはじまる…

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蚕棚からの目覚め  午前四時二十三分。しやあ しやああり しあやああという蝉の声。蚕棚のベッドに寝ていた夢から覚める。

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バンコクの犬と白い花  午前六時三十一分。ふと庭で咲く白い花を見ていて、タイ・バンコクで見たあばらのかたちの見える犬のことを思い出す。

 その犬のことを見たのは、暑くなる前の午前中のことだった。

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妻の青春の書  午前六時四十三分。目覚まし音で目を開けると、ふと目の前にある本棚の群青色の文庫本の背表紙に目が留まる。『ティファニーて朝食を』

背表紙の上端が少しすれて、印刷された群青ではない、白い本来の紙の色が見えている。本の上が切りっぱなしの、むかしながらの文庫本。この本棚には、妻の本が並んでいる。

我が家では、個人ごとに本棚が分かれている。どうして妻の本棚が、ぼくの寝床の目の前にあるかといえば、エアコンの風のせいで、ベッドの位置が入れ替わり、いまの配置になっている。ということで、目の前に妻の本が並び、ふと、本の背表紙を見ることとなる。

「この本棚にあるのは、厳選された本なのよ」と、ひところ、妻はよく話していた。

『ティファニーで朝食を』ーー いまの妻の趣味からは、どうつながるのか類推ができない。感情の問題でもあるから、類推では解題できないかも。

この本を手に取ったのは、十代のころなのか、二十歳をすぎてからなのだろうか。もちろん、ぼくの知らないころの彼女ではあるけれど。あらためて本棚を見ていて、人とは、こういったものからもできているのかと思うと、つくづく人とは形のないもの、あるものが綯い交ぜになった存在なのだと感じる。

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夏休みはすぐそこに  七月二十日、午前七時五十分。いつもより早い電車に乗り、終点の多摩川に着いて、降りるときもゆつくりでいいなあと思っていたら、小学生の女の子三人組がなかなか席を立たない。ため息をつきながら、降りて行く人を目で追っている。

ーー あと一日だ、学校へ行け

と、心のなかで言いかけて、「あとひと息」という言葉が思い浮かぶ。

明日からが薔薇のような日々なのか、塾や勉強に追われる日々なのか。それによっても、ため息の意味は変わるよなと思う。

という、ぼくは、自分が夏休みでなくとも、夏休みの気分でいたいと思いなおした今朝のでき事ではありました。

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朝のエアポケット  午前八時ちょうど発。この時間に出る各駅停車の電車は、渋谷を過ぎるとエアポケットのように閑散として、しばし目をつむる。一本前の電車でもない、一歩後の電車でもない、この電車だけは心やさしくなって会社に行ける。

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目を閉じたミューズ  午前八時十三分、某私鉄各駅停車。肩くらいの長さの髪の毛をうなじのところで丸めた女の子。少し日焼けした顔を、ひざに抱えたリュックにあずけて、居眠りしている。

シンクロの選手のように、目立つまつ毛をつけて、黒いアイラインが目じりから大きくはみ出している。

「卑弥呼?」

アディダスの赤ジャージをはいて、白のTシャツ、カーキの革のサンダル。

Tシャツは白地に、線の強いドイツ語のフレーズ。赤ジャージには白い三本線が腰から足先まで走っている。

要するに、線が好きなのかと思いながら、まじまじとまつ毛を見つめる。彼女の目を開く前にと、四歩左に移動した。

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受取人は個人の娘?  ……受取人は個人の娘であり…と、隣りのグレーのスラックスの紳士の、すれた黒表紙の本のページを読んだところで、電車は停まり、その紳士は降りて行った。

次のページはどんな展開になるのだろう、あの紳士にどのような依頼が来ているのだろう。とても気にぬるできごととなった。

 金の余るところ、相続の整理の依頼があり、金のないところ、ただ単純に配偶者と子供たちで法規どおり、杓子定規に分ける。そんな世の中である。

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コーヒーで時間をともにする  

このごろでは、朝、自分と妻用に、二杯コーヒーを挿れている。

ポットは、八年前の転職のときに妻がお揃いで買ってくれたものだ。

あの年は、インド系の会社で、朝から夜中までよく働いた。異文化のなかでしごかれた。もう、あんな思いはまっぴらごめんだけれど、職を移ってからは、まあ、あれもよい経験と思えるようにはなった。

あのポットは、そんなころ、毎日お茶を入れて、妻が持たせてくれたものだった(といま、思い出す)。朝の、しゃけ入りおにぎりも一緒に。

※ ※ ※

いまの家に移ってからは、よくコーヒーを挿れるようになった。缶コーヒー代の節約と、自分のコーヒーの方が美味く感じるからだけれど、コーヒーの粉代だけだと、約十数円という経済性のは大きい。

※※

 都心に向かう電車のなか、隣りの高校生の四角いリュックが腕にあたる。

 ※

いまごろは、妻も起き出して、朝の体操をして、コーヒーでも飲んでいるのだろうか。ま、そういった、ささやかな想像をするというのも、コーヒーという置きみやげのおかげかと思う。いま、午前八時三十八分。

2018年7月 東京。

#003

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